海外5か国 教育アプリ調査 計算テストの成績上位層ほど、オンライン学習や数学の演習でアプリを使用

2026.3.26 公開

概要


公益財団法人スプリックス教育財団(本部:東京都渋谷区/代表理事:常石 博之)は、基礎学力に対する意識の現状を把握することを目的に、「基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025」を実施しました。本報告では、世界5か国の中学2年生を対象にした、教育アプリの利用実態や計算力との関連性を調査結果について報告します。
調査結果のポイントは以下の通りです。

調査結果のポイント

(1)アプリ学習は「オンライン学習」「数学の演習」「解答チェック」が主流
中国や南アフリカ では、アプリを学習に活用している層が 9割を超えて定着 している一方、フランスでは約7割に留まる など、アプリ学習の浸透度には国ごとに差が見られました。しかし活用内容に注目すると、すべての国で 「オンライン学習」「数学の演習」「解答チェック」が上位 を占めました。特にアメリカ、イギリス、中国では特定の教科に絞らない「オンライン学習」が最も多く選ばれており、時間や場所に縛られず、個々のニーズに合わせた学習環境で勉強する文化が根付いている可能性が見て取れます。


(2)成績上位層における「数学の演習用アプリ」の高い活用率
南アフリカを除く4か国において、計算テストの 成績上位層は下位層に比べ、数学の演習用アプリをより積極的に活用 している傾向が見られました。特にフランスでは、成績下位層の数学の演習用アプリ未使用率が目立ちました。


(3)自由回答に見る人気アプリとその背景
中国を除く4か国で外国語教育アプリの Duolingoが人気 で、世界的な普及が確認されました。また、アメリカ等では習熟度に応じたアダプティブ学習、イギリスでは公的なプラットフォーム、中国ではAIによる苦手診断や思考プロセスの解説、といったように、各地のニーズに応じて教育アプリが活用 されていることもわかりました。

調査の背景


世界的にEdTechの導入が進む一方で、日本の教育関係者や保護者の間では 「デジタルツールの活用は、本当に学力の向上に寄与しているのか」 という根源的な疑問が依然として存在します。

諸外国に目を向けると、習熟度に応じたアダプティブ学習、数学の演習に特化したものや、AIによる苦手診断など、学習内容そのものをサポートする多様なツールが活用されています。日本国内でもDuolingoやUdemyといったグローバルなツールの認知度は高まっていますが、中高生の教科学習に特化した 海外のプラットフォーム については、言語の壁もあり、国内での認知や活用は限定的 なのが現状です。そのため、海外においてデジタルツールがいかにして学力向上を支えているのかという具体的な実態は、十分に把握されているとは言えません。

そこで本調査では、世界5か国の中学生を対象に計算テストの結果とアプリ利用実態を掛け合わせ、その相関性を分析 しました。単なる普及率の比較にとどまらず、成績層ごとの利用傾向や、自由回答から得られた具体的な機能を詳しく検証することで、学力を支える海外のデジタル学習の実態を明らかにする ことを目的とします。

調査方法

調査テーマ基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025
調査時期2025年4月~6月
調査対象国アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国(計5か国)
調査対象者中学2年生(以下、中2)
サンプル数アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国:各国150名
調査方法インターネットパネル調査。
スプリックス教育財団が、株式会社クロス・マーケティングに委託して実施。
・本リリースに関する内容をご掲載の際は、必ず「スプリックス教育財団調べ」と明記してください。

調査結果


(1)アプリ学習は「オンライン学習」「数学の演習」「解答チェック」が主流

世界5か国(アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国)の中2を対象に 「学習のためにスマートフォンやタブレットのアプリをどの程度利用しているか」 という調査を行いました。

図1(a)の各国比較によると、南アフリカと中国 では「よく使っている」「時々使っている」の合計が90%を超えており、他国と比べてもアプリが学習ツールとして定着している 様子がうかがえます。一方、フランス ではその合計は約70%にとどまり、「よく使っている」と回答した割合も20%と、5か国の中で最も低い結果 となりました。

図1. (a)国別の教育アプリ利用頻度分布 (b))国別およびアプリ種別の利用率を示したヒートマップ
図1. (a)国別の教育アプリ利用頻度分布。縦軸は回答者の割合(%)を示し、各国のバーの色の違いによって、学習アプリの使用頻度の構成(「よく使っている」から「全く使ったことがない」まで)を表示しています。(b)国別およびアプリ種別の利用率を示したヒートマップ。各マスの数値は利用率(%)を示し、赤(高)〜 黄(中)〜 青(低)のカラースケールで項目のボリュームを視覚化しています。なお、算出母数からは「全く使ったことがない」層を除外しています。

また、教育アプリ利用経験者を対象に 具体的な利用目的 を尋ねたところ[図1(b)]、フランス以外の4か国で 「オンライン学習」「数学の演習」「解答チェック」の利用率が高かった です。特に アメリカ、イギリス、中国 では、アプリ利用者の ほぼ過半数が「オンライン学習」を選択 しており、時間や場所に縛られず、個々のニーズに合わせて最適な学習環境を勉強する文化が根付いている可能性 があります。



(2)成績上位層における「数学の演習用アプリ」の高い活用率

計算能力の差による利用アプリの違いを明らかにする ため、基本的な計算問題32問を用いたテストを実施 しました。成績に基づいて回答者を4分割し、上位25%を「成績上位層」、下位25%を「成績下位層」と定義して、アプリの利用率にどのような差があるかを確認しました[図2(a)]。

図2. (a)計算テストの結果 (b)「数学の演習用アプリ」の利用率
図2. (a)計算テストの結果に基づき、成績上位層と下位層におけるアプリ利用率の差を可視化しました。マス目が赤いほど「上位層の利用率が高い」ことを示し、青いほど「下位層の利用率が高い」ことを示します。(b)「数学の演習用アプリ」の利用率について、国ごとに成績上位層(赤色の棒)と下位層(青色の棒)を並べて表示しています。縦軸は各層における利用者の割合(%)を示しています。

「数学の演習用アプリ」 に注目すると、南アフリカを除く4か国において、上位層と下位層の間で利用頻度に明確な格差 がありました。また イギリス においては、勉強記録・管理アプリやオンライン学習の利用者に成績上位者が多い傾向にあり、オンラインプラットフォームの活用が学習成果に影響を与えている可能性 が示唆されます。図2(b)では、成績層別の数学の演習アプリの具体的な利用率を示しています。特に フランス では 成績下位層における「未使用率」の高さが顕著 なことがわかりました。

ただし、これらの結果から「数学の演習アプリの利用が直接的に計算能力の向上をもたらした」と 断定するには注意が必要 です。一般に、学業成績は家庭の社会経済的背景(SES)と強い相関がある ことが知られています。したがって、成績上位層はSESが高いためにデジタルデバイスや良質な学習コンテンツへのアクセスが容易であり、その結果としてアプリ利用率と成績の両方が高まっているという、背景要因の影響も考慮すべき でしょう。



(3)自由回答に見る人気アプリとその背景

教育アプリ利用者を対象に、実際に利用しているアプリ名 を具体的に尋ねました。得られた 自由記述回答を国別で集計 し、回答者数の多かったアプリ上位3つを抽出 しました。以下では、上位に挙がったアプリの機能や特徴を解説します。

表1 教育アプリ利用に関する自由解答の集計結果(国別上位3件)

<アメリカ・イギリス・フランス・南アフリカ:Duolingo>
中国以外の4か国で共通して多く見られたのが、外国語教育アプリのDuolingo です。2025年には算数・数学コースもリリース されましたが、展開状況は国によって順次となっており、数学学習における影響力については今後の動向が注目されます。(参照:Duolingo公式サイト


<アメリカ・イギリス・南アフリカ:Khan Academy>
3か国で多く挙げられたのがKhan Academyです。講義動画と演習問題がセットになっており、正誤に応じて問題の難易度が変化する アダプティブラーニング が特徴です。学習状況は「未着手(Not Started)」から「習得済み (Mastered)」まで5段階で可視化されています。一定期間を経て再出題される「マスタリーチャレンジ」をクリアすることで、短期記憶を長期記憶へと定着させる仕組み が構築されています。(参照:Khan Academy公式サイト


<アメリカ・フランス・南アフリカ:Quizlet>
Quizletは、自分や他人が作った 単語カードで効率よく学べる学習アプリ です。先生は、多彩な学習モードや 対戦型ゲーム「Quizlet Live」 を授業に取り入れることができます。これにより、生徒が楽しみながら学習に取り組める、質の高い授業づくりができます。(参照:Quizlet公式サイト


<イギリス:BBC Bitesize>
イギリスの公的教育に準拠した学習サイト で、高い利用率を誇ります。授業内容の復習や確認テストとしての側面が強く、学校の宿題として指定されるケースも多いため、イギリスの生徒に深く根付いています。(参照:BBC Bitesize公式サイト


<フランス:PRONOTE>
フランスの公立中学校・高等学校の9割が導入 している 学校生活管理用アプリ です(引用文献)。このアプリの最大の特徴は、学校生活におけるあらゆる情報へのアクセスと連絡機能が集約されている点です。具体的には、リアルタイムでの時間割の確認、取り組むべき宿題の管理、成績やスキルの閲覧、欠席状況の把握およびその理由の提出などがアプリ上で完結します。(参照:PRONOTE公式サイト


<中国:作业帮、 猿輔導、 学而思>
中国では、2021年の学習塾規制により、営利目的の塾運営が禁止されました。そこで塾大手各社は従来の「授業の提供」から、AIを搭載した学習用アプリ や、専用学習端末の販売 へとビジネスモデルを転換させました。

  • 作业帮 (Zuoyebang): 教育アプリ・学習端末 もともとは問題を写真で撮ると解答が表示される検索アプリとして普及しましたが、現在は学習端末の開発などにも深く展開しています。わからない問題を写真で撮るだけで、アプリが 膨大なデータからAIで苦手を分析 して、個別の練習問題を生成する機能 が支持されています。(参照:作业帮 公式サイト

  • 猿輔導 (Yuanfudao): 教育アプリ AI技術を軸とした様々な教育アプリを展開しています。例えば、作业帮同様に、カメラの下に宿題を置くだけで手書き文字を認識し、即座に 採点や解説動画の提示を行う機能 があるアプリもあります。保護者の学習管理の負担を軽減するツール として活用されています。(参照:猿輔導 公式サイト

  • 学而思 (Xueersi): 教育アプリ・学習端末 ニューヨーク証券取引所に上場している、好未来教育集団 (TAL Education Group)の主要事業です。学而思が提供する専用の学習端末では、単に答えを教えるのではなく、思考プロセスをガイドする仕組みに注力しています。DeepSeekの高性能モデル を用いており、解けない問題に対してAIが段階的にヒントを提示 する「深思考(Deep Thinking)モード」を搭載しており、自律学習を支えるツールとして都市部を中心に普及しています。(参照:学而思 公式サイト

なお、DeepSeekとは、中国のスタートアップが開発した高性能かつ低コストなAIで、2025年1月にリリースされた最新モデル 「DeepSeek-R1」 は教育業界に大きな変革をもたらしました(引用文献)。上記の作业帮、猿輔導、学而思をはじめとする多くの教育機関が、自社の教育アプリや専用端末にDeepSeekを導入しています。



まとめ


今回の調査の結果、教育アプリの普及状況には国ごとに大きな差がある ことが分かりました。中国や南アフリカでは教育アプリが深く定着している一方で、フランスのように活用が限定的な国も見られました。

また、多くの国で共通して、成績上位層ほど数学の演習アプリを積極的に活用している傾向 が確認されました。ただし、この背景には家庭の社会経済的背景(SES)が影響している可能性があることに注意が必要です。デバイスを使える環境にあるか、質の高いコンテンツに触れられるかといった家庭の状況の差が、そのまま学力の差につながっている側面は否定できません。こうした教育格差の課題については、今後も慎重に見ていく必要があります。

さらに、回答者が実際に使っているアプリ名を分析したところ、世界中で使われている共通のアプリがある 一方で、その国独自の進化を遂げているアプリもある ことがわかりました。例えば、語学学習のDuolingoは多くの国で定番となっていますが、中国では作业帮や学而思といった独自のアプリが普及しています。これらは、DeepSeekの高性能AIモデルをいち早く導入しており、単に答えを出すだけでなく、考え方のプロセスをガイドしてくれるなど、独自の進化を遂げています。

こうした技術革新を踏まえると、今後も、生成AIのさらなる進化に伴い、教育アプリの役割や機能は劇的に変容していくことが予想 されます。こうした世界の技術動向を注視し、先進的な事例をベンチマークとしながら、日本の教育アプリも独自の発展を続けていく必要があるでしょう。あわせて、デジタルツールの活用が真に学習者の学力向上に寄与しているのか、その 実効性についても、継続的な調査と精緻な検証が求められます。

本報告は、「基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025」に基づく第11回目の報告です。今後もスプリックス教育財団では、子どもの基礎学力に関して様々な分析を進めてまいります。



補足:計算テストの実施概要


<パネル調査での計算テスト内容>
問題内容:国際基礎学力検定TOFASの計算分野に準じた基礎的な計算問題
問題構成:小学生の復習、分数、正負の数、文字式、方程式、式の計算、連立方程式
問題数:32 問
制限時間:15 分


補足:調査項目の内容


質問1:あなたは、勉強のためにスマホやタブレットでアプリをどのくらい使っていますか。 ※学校や塾の授業での利用は含めません
選択肢︓よく使っている / 時々使っている / 試しに使ったことがある / 全く使ったことがない

質問2:どのようなアプリを勉強で使っていますか。あてはまるものをすべて選んでください。
選択肢︓勉強を記録する・学習を管理するためのアプリ / オンラインで学習するためのアプリ / 外国語を学習するためのアプリ / 国語を学習するためのアプリ / 数学の演習のためのアプリ / 英単語を覚えるためのアプリ / 解答をチェックするためのアプリ / 辞書をひくためのアプリ / その他

質問3:勉強のためによく使っているアプリの名前を5つまで教えてください。※特にない場合は空欄のままで構いません。

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