家庭背景による計算力の差、子どもの基礎学力の価値観で縮小する可能性―「勉強の基礎は重要」や「計算力に自信」で―6か国国際調査から

2026.4.22 公開

概要


公益財団法人スプリックス教育財団(本部:東京都渋谷区/代表理事:常石 博之)は、基礎学力に対する意識の現状を把握することを目的に、「基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025」を実施しました。報告では、家庭の社会経済的背景(SES)による計算力の差を克服する要因(レジリエンス)を探る ことを目的として、子どもの基礎学力に関する価値観に着目 して、計算力とSESとの相関を 分析しました。6か国(アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国、日本)を対象に分析した本調査のポイントは以下の通りです。

調査結果のポイント

(1)日本は「勉強の基礎は重要」など基礎を重視する一方で、「計算力に自信」といった肯定感は控えめ
6か国の小学4年生に 「勉強の基礎は重要」「計算力は大切」 といった 基礎学力の重視 について尋ねたところ、日本は他の5か国と同様に7割以上が強く肯定しており、日本の子どもは基礎学力を重視する傾向 が示されました。一方で、「計算力に自信がある」「計算が好き」 といった 計算の肯定感 については、日本は他の5か国を下回りました。日本の子どもは基礎学力を重視 する一方で、自分自身の計算に対する肯定感が控えめである ことが明らかになりました。


(2)日本や他の5か国でも、SESによる影響を縮小する傾向
低SESと高SESの計算力の差は大きく、 基礎学力の重視や計算の肯定感だけでは SESによる計算力の差を乗り越えることは難しい ことがわかりました。しかしながら 「勉強の基礎は重要」「計算力に自信がある」と強く肯定 した子どもは、どのSES層においても計算力が高く、SESによる影響を縮小する傾向 がみられました。この傾向は、日本だけでなく他の5か国でも共通 して見られました。

調査の背景


以前の報告で、「世帯年収」「教育費」「保護者の大卒率」「家庭の本の数」といった SES(家庭の社会経済的背景)が計算力と相関がある ことを示しました(「計算力と家庭環境に相関 世帯年収や親の学歴などで:6か国国際調査」スプリックス教育財団 参照)。家庭環境によって生じる差は、学校などの外部環境で直接改善することは困難です。しかし、計算力などといった基礎学力は、本来家庭環境によらず一定以上のレベルに到達することが期待されます。SESによる影響を乗り越えるために、公教育や学外学習ではどういった支援を行うべきなのでしょうか。スプリックス教育財団では、本調査を通じて計算力と相関がある価値観を明らかにし、SESによる影響を克服するレジリエンス(困難に立ち向かう力)には何があるのか を探る足掛かりとしたいと考えています。

前回の報告(「算数の勉強で悩みは少ない日本。しかし家庭環境により差 6か国国際調査」スプリックス教育財団 参照)では、計算力向上の妨げ となる要因として 「算数の勉強で抱える課題」 を調査し、課題を抱える子どもほど計算力が低い傾向 があることを示しました(SES指標の定義については、前回の報告をご参照ください)。

今回は、基礎学力に関する価値観 に着目し、計算力を向上させ、SESによる影響を乗り越える 可能性について検証します。「計算力は大切」や「勉強の基礎は重要」といった 「基礎学力の重視」 の価値観や、「計算力に自信がある」や「計算が好き」といった 「計算の肯定感」 のような価値観は、学習意欲を向上 させる可能性があります。今回の報告では、基礎学力に関する価値観がSESや計算力とどのような相関を示すかを、日本と日本以外の5か国と比較しながら検証しました。その上で今後、子どもの価値観を育むことがSESによる影響を縮小し、計算力を底上げするための具体的な支援策となりうるか を、検証していく足掛かりとすることを目的としています。

調査方法

調査テーマ基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025
調査時期2025年4月~7月
調査対象国パネル調査:アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国(計5か国)
学校調査:日本
調査対象者小学4年生(以下、小4)および中学2年生(以下、中2)。
本文内では主に小4の結果について報告します。中2の結果については付録のPDFをご参照ください。
サンプル数パネル調査:合計1,500組(各国各学年150組)
学校調査:小4 約200組。中2はサンプル数が少ないため省略
調査主体スプリックス教育財団が以下に委託して実施
(1) 株式会社クロス・マーケティング (2) 株式会社スプリックス
調査方法パネル調査:インターネットパネル調査によるランダム抽出
学校調査:1学年あたり1~数校の学校および自宅での調査。保護者の回答は任意。
分析方法SES:「世帯年収」「教育費」「保護者の大卒率」「家庭の本の数」の4指標を国別学年別に統合・正規化した合成SES指標を使用。詳細は第12回報告の付録PDF参照。
計算力: 計算テストの正答率が高い順に国別学年別に高位・中位・低位の3層に分類した計算力層を使用。
・学校調査(日本)では、回答者はランダムに抽出されたものではありません。そのため、便宜上「国名」として記載していますが、特定の地域や学校の結果であることにご留意ください。
・日本のデータは匿名性保持のため、正確な調査対象者数を非公表としています。
・本報告では、日本の調査結果をインターネットパネル調査の5か国合計(以下パネル5か国と記載)との比較を中心に報告しています。
・本リリースに関する内容をご掲載の際は、必ず「スプリックス教育財団調べ」と明記してください。


調査結果


(1)日本は「勉強の基礎は重要」など基礎を重視する一方で、「計算力に自信」といった肯定感は控えめ

「基礎学力の重視」や「計算の肯定感」といった 基礎学力に関する価値観 の違いは、計算力を向上させ、SES(家庭の社会経済的背景)による影響を乗り越える要因として機能する可能性 があります。では、日本や各国の小学生は、基礎学力をどの程度重視 しているのでしょうか。次の 基礎学力の重視 に関する設問に「そう思う」「ややそう思う」「どちらともいえない」「あまりそう思わない」「そう思わない」のいずれかで回答していただきました。

質問 「勉強に関する以下の文章について、あなたはどの程度そう思いますか。」

  • 計算力は大切
  • 勉強の基礎は重要
  • 苦手教科も基礎レベルの習得は大切

日本およびパネル5か国(アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国)の 小学4年生が基礎学力の重視 に関する設問に「そう思う」と回答した割合(強い肯定率)を図1(a)に示します。日本はパネル5か国と同様7割以上が「そう思う」と強く肯定しました。日本の子どもは基礎学力を重視する 傾向が示されました。

図1:基礎学力に関する価値観「(a) 基礎学力の重視」「(b) 計算の肯定感」(小学4年生)
図1:基礎学力に関する価値観「(a) 基礎学力の重視」「(b) 計算の肯定感」(小学4年生) パネル5か国はアメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国。

では、自分自身の計算力にはどの程度自信があるのでしょうか。続けて、計算の肯定感 に関する設問にも同様に、「そう思う」「ややそう思う」「どちらともいえない」「あまりそう思わない」「そう思わない」のいずれかで回答していただきました。

質問 「勉強に関する以下の文章について、あなたはどの程度そう思いますか。」

  • 計算が好き
  • 計算力に自信がある

日本およびパネル5か国(アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国)の 小学4年生が計算の肯定感 に関する設問に「そう思う」と回答した割合(強い肯定率)を図1(b)に示します。「計算が好き」「計算力に自信がある」といった 子ども自身の計算の肯定感 に関しては、パネル5か国は5割以上が「そう思う」と強く肯定したのに対し、日本は5割を大きく下回りました。

日本の子どもは基礎学力を重視 する一方で、自分自身の計算に対する肯定感が控えめである ことが明らかになりました。



(2)日本や他の5か国でも、SESによる影響を縮小する傾向

次に特徴的な設問に絞って、SESや計算力とどのような相関を示すかを分析し、その可能性を検証します。ここでは、日本に絞って見ていきます。図2に「(a)勉強の基礎は重要」「(b)計算力に自信がある」に対して「そう思う」と回答した日本の小学4年生の割合を計算力層別・SES層別に示します。

図2:SES層別・設問の回答別にみた計算力層の割合「(a) 勉強の基礎は重要」「(b)計算力に自信がある」(日本・小学4年生)
図2:SES層別・設問の回答別にみた計算力層の割合「(a) 勉強の基礎は重要」「(b)計算力に自信がある」(日本・小学4年生) 設問の回答は、「そう思う」と「それ以外(ややそう思う、どちらともいえない、あまりそう思わない、そう思わない)」に分類。SES層は「世帯年収」「教育費」「保護者の大卒率」「家庭の本の数」を国別学年別に統合・正規化した合成指標により高・中・低の3層に分類。計算力層は、計算テストの正答率が高い順に国別学年別に高位・中位・低位の3層に分類。設問の回答により、SES層間で計算力高位や低位の割合が逆転している箇所は、ピンクの区分線で示す。

まず、図2(a)の 「勉強の基礎は重要」 について見ていきます。SESの層別に見ると、「そう思う」と回答した場合、「それ以外の回答」の場合に比べて、計算力高位が増え、計算力低位が減るという傾向が見られます。いずれのSES層でも、「勉強の基礎を重視するほど計算力が高い傾向」 があると言えます。

図2(a)「勉強の基礎は重要」で隣り合ったSES層で比較すると、「高SESでそれ以外」と「中SESでそう思う」では、「中SESでそう思う」のほうが計算力の低い割合が減少しています。これは、基礎を重視する価値観がSESによる影響を縮小している 可能性を示唆しています。しかし、計算力が高い層の割合は逆転していません。また、「低SESでそう思う」と「高SESでそれ以外」では計算力高位である割合は15.6%と41.7%という大きな差があります。低SESと高SESの計算力の差は基礎を重視するだけでは越えられない ことがわかります。

次に、図2(b)の 「計算力に自信がある」 について見ていきます。SESの層別に見ると、「そう思う」と回答した場合、計算力高位が増え、計算力低位が減るという傾向が同様に見られます。これは、いずれのSES層でも、「計算力に自信があるほど計算力が高い傾向」 があると言えます。

図2(b)「計算力に自信がある」で隣り合ったSES層で比較すると、「高SESでそれ以外」と「中SESでそう思う」では、「中SESでそう思う」のほうが計算力の高い傾向にあります。これは、自信の有無がSESによる影響を縮小している 可能性を示唆しています。しかし、「低SESでそう思う」と「高SESでそれ以外」では、計算力高位である割合が22.2%と40.0%という大きな差があります。低SESと高SESの計算力の差は自信の有無だけでは越えられない ことがわかります。

日本においては、「勉強の基礎は重要」といった 基礎学力の重視や、「計算力に自信がある」といった 計算の肯定感 の両方において、それだけではSESによる計算力の差を乗り越えることは難しい ことがわかりました。しかしながら、SESによる計算力の差を縮小する傾向 がみられ、基礎学力の重視や計算の肯定感といった子どもの 基礎学力に関する価値観 を育むことが SESによる影響を縮小し、計算力を底上げできる可能性 が示唆されました。

なお、日本のデータは特定の地域における調査であり、一部の層でサンプル数(N数)が限定的であるため、その結果は傾向を示す参考値として捉える必要があります。しかし、より大規模なサンプル調査である パネル5か国においても同様の傾向 が確認されました。パネル5か国 では日本に比べて SESとの相関が小さい傾向 があり、基礎学力に関する価値観がSESによる計算力の差を縮小する可能性 が示唆されました。パネル5か国の結果の詳細については付録のPDFをご参照ください。



まとめ


本報告では、基礎学力に関する価値観について興味深い結果が得られました。日本 においては、「勉強の基礎は重要」など 基礎を重視する傾向 を示す一方で、「計算力に自信がある」などの子ども自身の 計算の肯定感 は低い傾向が明らかになりました。

また、計算に自信があるほど、基礎学力を重視しているほど、計算力が高い という傾向が示されました。基礎学力に関する価値観が、学習意欲の向上を促し、計算力を高めている可能性があります。「勉強の基礎は重要」のような基礎学力を重視する価値観は、計算力の高低に関わらず培われうるものです。こういった 低SES層の子どもたちに基礎学力の重要性を伝え、基礎学力に関する価値観を育むことが、計算力向上の一助となる可能性 があります。

しかしながら、低SES層は基礎学力を重視していたとしても、基礎学力を重視していない高SES層には及ばない こともわかりました。基礎学力に関する価値観を育む以外にも低SES層への支援が依然として必要 です。また、本調査では因果の方向性は確認することができません。特に「計算力に自信がある」については、計算力が高いことの結果として自信が生まれている可能性も十分に考えられます。そのため、当財団では 経年調査 を行い、学習における価値観と計算力の推移 の分析を今後も進めていく考えです。

なお、パネル5か国では日本以上に基礎学力に関する価値観がSESによる計算力の差を縮小している傾向 も見られました。日本とそれ以外の国での違いについても今後検証を進め、各国における特徴と課題を明らかにしていきたいと考えています。詳細およびパネル5か国・中2の結果概要は調査結果(PDF)に掲載しています。ぜひご参照ください。

本報告は、「基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025」に基づく第13回目の報告です。スプリックス教育財団では今後も、基礎学力に関する価値観と計算力の関係を継続的に検証し、SESによる影響を乗り越えるレジリエンス(困難に立ち向かう力)の解明に取り組んでまいります。



補足:計算テストの実施概要


本調査で実施した計算テストは、参加方法によって内容が異なります。

  • 学校調査: 学校の教室において、国際基礎学力検定TOFASの計算テストを受験。
    TOFASは受験する学年・レベルによって問題数や難易度が異なります。
  • パネル調査: TOFASの問題を一部抜粋した短縮版(全32問)を実施。

そのため、両グループ間で正答率を直接比較することはできません。出題される問題は、学年に応じた基礎的な計算問題です。例えば、小学4年生では「43×2」、中学2年生では「(5x−9)−(−x−4)」といった内容が含まれます。

なお、TOFAS(国際基礎学力検定)の詳細は下記よりご確認ください。

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