『基礎学力』とは何か? 日本の保護者は「知識、技能」、他9か国は「活用する力」を主に挙げる

2026.9.16 公開

概要


公益財団法人スプリックス教育財団(本部:東京都渋谷区/代表理事:常石 博之)は、日本を含む10か国の小中学生とその保護者・学校の先生を対象に「国際基礎学力調査2026」を実施しました。本調査では『基礎学力』に着目しましたが、そもそも 『基礎学力』とは何を指す言葉でしょうか。 当財団は、小中学生を子どもにもつ保護者が『基礎学力』に何が含まれると考えているか を、日本含む10か国 で比較し、その認識が 国によってどれだけ異なる かを調査しました。

調査結果のポイント

(1)『基礎学力』という言葉は調査10か国すべてで認知されており、多数の保護者が重要だと回答
日本含む10か国の小中学生の保護者に『基礎学力』について質問したところ、全ての国で半数以上が、時々以上の頻度で「見聞きする」と回答しました。さらに「基礎学力は重要か」と質問したところ、モロッコを除く9か国で8割以上の保護者が重要だと回答しました。


(2)日本の保護者は『基礎学力』に「知識、技能」を主に挙げる
日本の小中学生の保護者に「『基礎学力』にどのような力が含まれていると思うか」と質問したところ、「読み書きの能力」(76.0%)、「計算力」(68.0%)、「主要教科の基礎知識」(64.2%)の順に多く挙げました。上位3項目はいずれも「知識、技能」にあたる力が選ばれました。


(3)他9か国の保護者は『基礎学力』に「活用する力」を主に挙げ、日本とは対照的
日本以外の9か国の小中学生の保護者にも「『基礎学力』にどのような力が含まれていると思うか」と質問しました。10か国全体では「情報を正しく理解し、活用する力」(51.0%)や「問題を見つけて解決する力」(48.3%)が上位2項目を占めており、日本以外の国では「活用する力」を多く挙げる傾向がありました。『基礎学力』に含まれる上位3項目が揃って「知識、技能」にあたる力だったのは、10か国で日本だけでした。

調査の背景


『基礎学力』 という言葉を聞いたことのある方は多いのではないでしょうか。ただし、それが何を指すかは、時代によって変遷している ようです。1958年の学習指導要領改訂 では 「基礎学力の充実」 が明確に掲げられ、その具体策は 国語と算数の充実 でした [1]。その後、行政の文書では、知識や技能に 加えて 思考力などの活用する力学ぶ意欲 までを含める形で学力が整理されるようになりました [1][2]。学問の世界でも、『基礎学力』を一義的に定義することは 誰にとっても不可能 だと指摘されています [3](詳しくは添付PDFの「補足:学力と基礎学力の捉え方の変遷」をご覧ください)。

それでも、「基礎学力は重要だ」 という意見には、多くの人が同意するかもしれません。しかし『基礎学力』と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。 この答えは、時代や国、さらには一人ひとりによって異なる 可能性があります。もし「基礎学力が重要だ」という一言が、話し手ごとに別のものを指しているなら、学校が家庭に伝えるときも、国際的に議論するときも、期待はすれ違ったまま進む危険があります。

そこで本調査では、日本を含む10か国の、小中学生の子どもを持つ保護者 に「基礎学力は重要か」と尋ねた上で、「基礎学力に含まれる力は何か」 を質問しました。「基礎」「基本」という観点で 各国の学力観を浮き彫りにする ことが目的です。

調査方法

調査テーマ国際基礎学力調査2026
調査時期2026年4月 ~ 8月
調査対象国日本、フィリピン、インドネシア、ベトナム、タイ、キルギス、ケニア、エジプト、モロッコ、ペルー
(国の選定については「調査対象の選定について」参照)
調査対象者小学4年生、小学5年生、中学2年生、および中学3年生に相当する子ども
(以下、小4、小5、中2、中3、あるいは小中学生)の保護者
サンプル数保護者:3,547人(2026年9月1日時点)
国別の回答数は表1参照
調査主体公益財団法人スプリックス教育財団が株式会社スプリックスに委託して実施
調査方法1学年あたり1~数校の学校および自宅での調査
保護者の回答は任意
・本調査は2026年4月から8月にかけて実施しており、本報告は2026年9月1日時点で回収済の回答を集計したものです。最終的な集計では、数値が変動する場合があります。
・一部の国では、小6・中1を対象に含んでいます。(小6:タイ、中1:インドネシア、モロッコ)
・当調査では小中学生および学校の先生にも調査を行っていますが、本報告では保護者の回答のみ扱います。
・図で使用している百分率(%)は小数第2位を四捨五入して算出しています。四捨五入の結果、数値の和が100.0にならない場合があります。
・本リリースに関する内容をご掲載の際は、必ず「スプリックス教育財団調べ」と明記してください。

注:調査対象の選定について

本調査は、株式会社スプリックスが実施した国際基礎学力検定TOFASを、調査時期の期間内に受験した者のうち、有志の学校を対象としています。そのため、基礎学力の向上に課題を感じている国を中心とした調査結果です。また、回答者はランダムに抽出されたものではありません。そのため、便宜上「国名」として記載していますが、特定の地域や学校の結果であることにご留意ください。



調査結果


(1) 『基礎学力』という言葉は調査10か国すべてで認知されており、多数の保護者が重要だと回答

『基礎学力』という言葉 はどの国でも認知されているのでしょうか。日本含む10か国の小中学生の保護者に 「あなたの国で『基礎学力』という言葉をどれくらい耳にしたり目にしたりしますか。」 と質問しました(図1)。

図1:基礎学力の認知(小中学生の保護者、10か国)
図1:基礎学力の認知(小中学生の保護者、10か国) 「あなたの国で『基礎学力』という言葉をどれくらい耳にしたり目にしたりしますか。」という質問への10か国の小中学生の保護者の回答。選択肢は、とてもよく見聞きする/よく見聞きする/時々見聞きする/めったに見聞きしない/まったく見聞きしないからひとつ選択。図中のラベルの数値は、「とてもよく」「よく」「時々」の合計。全体は10か国の単純な合計で、国によるサンプル数の差を考慮していない。

10か国全体では、74.9%の保護者が時々以上の頻度で『基礎学力』という言葉を見聞きする と回答しています(「とてもよく」「よく」「時々」の合計)。国別に見てもインドネシアを除く9か国で7割以上の保護者が時々以上の頻度で見聞きするようです。

ではその 『基礎学力』をどの程度重視 しているのでしょうか。同じ10か国の保護者に「お子様の将来にとって、基礎学力はどの程度重要だと思いますか?」と質問しました(図2)。

図2:基礎学力の重視(小中学生の保護者、10か国)
図2:基礎学力の重視(小中学生の保護者、10か国) 「お子様の将来にとって、基礎学力はどの程度重要だと思いますか?」という質問への10か国の小中学生の保護者の回答。択一。図中のラベルの数値は、「とても重要」「重要」の合計。全体は10か国の単純な合計で、国によるサンプル数の差を考慮していない。

10か国全体では、90.1%の保護者が「基礎学力は重要だ」 と答えました(「とても重要」「重要」の合計)。国別にみると、モロッコを除く9か国で8割以上の保護者が基礎学力を重視していることがわかりました。

調査した10か国では、『基礎学力』という言葉はある程度一般的 であり、多くの国で小中学生の保護者は「基礎学力は重要である」という意識 を持っているようです。



(2)日本の保護者は『基礎学力』に「知識、技能」を主に挙げる

では、その「重要な基礎学力」とは、どのような学力を指しているのでしょうか。まずは、日本の保護者の回答を見ていきます。日本の小中学生の保護者に 「『基礎学力』には主にどのような力が含まれていると思いますか。」 と質問しました(図3)。

図3:基礎学力に含まれる力(小中学生の保護者、日本)
図3:基礎学力に含まれる力(小中学生の保護者、日本) 「『基礎学力』には主にどのような力が含まれていると思いますか。」という質問への日本の小中学生の保護者の回答。複数選択。この設問では、前問で「まったく見聞きしない」と答えた回答者にも、言葉の響きや意味から想像して回答するよう求めている。

日本では 「読み書きの能力」と答えた保護者が最多 で76.0%、次いで 「計算力」(68.0%)「主要教科の基礎知識」(64.2%)と続きました。調査の背景で示した文部科学省の定義に照らすと、これら3つはいずれも 「知識及び技能」 にあたります[1]。一方、他の選択肢は「活用する力」や「学習意欲」にあたるものです。日本の保護者は「活用する力」や「学習意欲」よりも「知識、技能」を『基礎学力』だと捉える傾向 にあることがわかりました。



(3)他9か国の保護者は『基礎学力』に「活用する力」を主に挙げ、日本とは対照的

それでは、他の国では「重要な基礎学力」がどのような学力を指していると認識されているのでしょうか。日本含む10か国の保護者に 「『基礎学力』には主にどのような力が含まれていると思いますか。」 と質問しました(表1)。

表1:基礎学力に含まれる力(小中学生の保護者、10か国)
表1:基礎学力に含まれる力(小中学生の保護者、10か国) 「『基礎学力』には主にどのような力が含まれていると思いますか。」という質問への10か国の小中学生の保護者の回答。複数選択。この設問では、前問で「まったく見聞きしない」と答えた回答者にも、言葉の響きや意味から想像して回答するよう求めている。国ごとに、選択率の上位3つを濃さの違う青で示した。全体は10か国の単純な合計で、国によるサンプル数の差を考慮していない。

10か国全体 で見ると、最多が 「情報を正しく理解し、活用する力」 (51.0%)、次いで 「問題を見つけて解決する力」(48.3%)でした。ただし 「その他」の選択肢を除くと39.9%~51.0% とその選択率の幅は小さく、一つの選択肢に回答が集中せず分散しているように見えます。

しかし 国別に見ると明確に認識の差 がある学力があります。まず、日本の回答がもっとも特徴的 でした。(2)で見たとおり、日本の保護者が多く挙げたのは 「読み書きの能力」「計算力」「主要教科の基礎知識」 です。この3項目は、いずれも10か国のなかで 日本の選択率が最も高い ものでした。さらに、上位3項目が揃って「知識、技能」 にあたる力なのは、調査した10か国の中では 日本だけ です。逆に「活用する力」にあたる項目では、日本の選択率は「情報を正しく理解し、活用する力」が10か国中4位につくほかは、「自分の考えを明確に表現する力」が7位、「論理的に考える力」が8位、「問題を見つけて解決する力」は9位でした。

その他を除く各回答の 差の大きさ も日本が最大でした。「その他」の選択肢を除き、日本で最も多く選ばれた「読み書きの能力」(76.0%)と、最も選ばれなかった「学習に対する姿勢と意欲」(32.0%)の差は44.1ポイントです。次に差が大きいのはエジプトの36.5ポイント、次いでキルギスの28.2ポイントで、他の7か国は8~21ポイント差です。日本は他の国と比べると差が大きく、特に「知識、技能」を基礎学力だと認識している ことがわかります。

日本以外の国では、最も多く『基礎学力』として選ばれた力は、「活用する力」 でした。「論理的に考える力(インドネシア・キルギス)」「問題を見つけて解決する力(ベトナム・ペルー)」「情報を正しく理解し、活用する力(タイ・エジプト・モロッコ)」「自分の考えを明確に表現する力(フィリピン・ケニア)」 がそれぞれ一番多く選択されています。2位や3位を見ても 「知識、技能」よりも「活用する力」を挙げる傾向 にありました。ただし、タイやモロッコでは2位と3位に「知識、技能」にあたる力を挙げるなど、必ずしも「活用する力のみ」を『基礎学力』と捉えているわけでもないことがわかります。「学習意欲」 が3位までに入る国は日本含めてありませんでした。

日本以外の9か国では、3位までが「活用する力」で占められていたのはフィリピン・インドネシア・キルギス・エジプト・ペルーの5か国、「知識、技能」と「活用する力」が混在していたのはベトナム・タイ・ケニア・モロッコの4か国でした。『基礎学力』に含まれる学力の認識は、国によってさまざまであることがわかりました。



まとめ


『基礎学力』 という言葉は、10か国すべてである程度聞き馴染みがある言葉であり、「基礎学力は重要だ」 という意識は、モロッコを除く9か国の保護者で共有されていました。

しかし、『基礎学力』に何が含まれるかは、国によって意見が分かれました。日本の保護者は「読み書きの能力」「計算力」「主要教科の基礎知識」を多く挙げました。上位3項目がすべて「知識、技能」にあたる力だったのは10か国で日本だけ です。他の9か国では「情報を正しく理解し、活用する力」や「問題を見つけて解決する力」といった「活用する力」を上位に挙げる傾向 がみられました。

この結果は、「基礎学力が重要だ」という合意が、その中身の合意を意味しない ことを示しています。国際的に議論するときはもちろん、学校が家庭に伝えるときにも『基礎学力』と言うだけでは通じ合えない可能性があり、議論のたびに何を指しているのかを添える必要 があります。

また、日本の保護者が「読み書きの能力」「計算力」「主要教科の基礎知識」を挙げる割合は10か国で最も高く、一方で「自分の考えを明確に表現する力」や「問題を見つけて解決する力」は下位でした。『基礎学力』という言葉が結びつく先が、他の9か国とは異なっています。『基礎学力』 に含まれる力は、行政でも学術研究の議論でも広がってきています。しかし、日本の保護者 の回答は 教育学の文脈で「伝統的」なもの と位置づけられている 「読み書き計算を基礎学力とする見方」[3]に 近い ものとなりました。

本調査の詳細および学力と基礎学力の捉え方の変遷については調査結果(PDF)に掲載しています。ぜひご参照ください。

本報告は、「国際基礎学力調査2026」に基づく第1回目の報告です。「国際基礎学力調査2026」では保護者以外に子ども自身や、子どもの先生の意識も調査しています。また、子どもの計算力も国際基礎学力検定TOFASを用いて計測しています。これから子どもたちの『基礎学力』をどう伸ばしていくのか。スプリックス教育財団では今後も、子ども・保護者・先生の意識や計算テストの結果も踏まえ、詳細な分析を進めてまいります。



補足:参考文献


[1] 文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編』2017年7月(1958年改訂については同書「(資料)学習指導要領等の改訂の経過」)

[2] 教育課程審議会「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の評価の在り方について(答申)」2000年12月4日

[3] 東京大学学校教育高度化センター編『基礎学力を問う ー 21世紀日本の教育への展望』東京大学出版会、2009年(第1章 佐藤学「学力問題の構図と基礎学力の概念」)

調査レポート全文をダウンロード(PDF)